秘密の地図を描こう
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「では、今回のコンサートはミーアさんにお願いしましょう」
ラクスの言葉に一番驚いたのは名指しされたミーアだったらしい。
「どうしてですか? ラクス様がいらっしゃるのに」
「その間に、わたくしはやりたいことがあるからですわ」
ミーアだから頼むのだ。彼女はそう言い返している。
「ラクス様がそうおっしゃるなら……」
「何。後で君もアークエンジェルに行ってもらうよ。あちらではラクス嬢が歌ってくださるはずだがね」
そうだろう、とラウが笑う。
「……必要でしょう?」
もっとも、すぐではないが……と彼女は言葉を返してくる。
「それでもいいです! 久々にキラさんに会えますし」
おやつを持って行こう、とミーアが楽しげに言い返した。
「あらあら。ずいぶんキラが好きになったのですね」
「だって、ラクス様。キラさんは絶対、あたしとラクス様を間違えませんもの」
どんなときでも、と言うミーアにラクスは納得したとうなずいてみせる。
「確かに、そうですわ」
「それなのに、あたしがちゃんとラクス様の身代わりができるようにあれこれとアドバイスをしてくれたんです」
だから、とミーアは笑う。
「アスランにはすぐにはばれないようになりました」
からかうのが楽しい、と彼女は続ける。
「女性陣には負けるよ」
こういう点は、とギルバートが苦笑とともにささやいて来た。
「何。キラ君が人気者だ、と言うだけだろう」
いいことだ、と笑い返す。
「とりあえず、オーブ軍を撤退させた後のことは話し合い通りでかまわないのだね?」
「あぁ。こちらとしても、アークエンジェルとは敵対したくないからね」
不戦の約束をしたと知らしめるだけでいい。
「アークエンジェルは、あくまでも中立、と言うことにしておきたい」
ギルバートはそう続ける。
「もっとも、あちらがどう考えるか。それはわからないがね」
それが一番厄介ではないか。
「とりあえず、キラ君のウィルスが完成するまで、動かないでいてほしいものだね」
でなければ、彼が無理をすることになる。ラウは言葉とともにため息をついて見せた。
「何。大丈夫だろう」
あの損害では、とギルバートは言い返してくる。
「それに、カガリ姫のこともあるからね。彼女が偽物ではない、と彼らの方がよく知っている」
カガリ・ユラ・アスハがどれだけ利用できる存在か。それを知っているのも彼らだ。
できれば、その身柄を手に収めたいと考えているだろう。そして、できればキラのそれもだ。
「だが、あまり時間は残されていないだろうね」
利用できると言うことは、それだけ障害になると言うことでもある。
取り込めないならば排除しようとするだろう。
「状況が変わればすぐに連絡があるよ」
彼からね、と意味ありげにギルバートは言ってくる。
「……なるほど。カナード君か」
情報源は、とラウは言い返す。
「きちんと契約を結んでいるからね」
文句は言わせない、とギルバートは笑みを深める。
「なら、大丈夫ですわね」
それでも、できるだけ早く戻った方がいいかもしれない。ラクスはため息とともに続けた。
「そろそろ、アスランの耳に入っているかもしれませんわ。わたくし達がここに来ていると」
こちらに突撃してくるならばいいが、アークエンジェルに押しかけていたら厄介ではないか。
「大丈夫です! さっき、一服盛って眠らせましたから」
自分とラクスを見分けられないアスランが悪い。ミーアがそう言って微笑む。
「……女性陣は怖いね」
「否定できない」
その女性陣を敵に回したアスランに名誉挽回の機会があるのか。そう思わずにいられないラウだった。